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ウクライナ情勢・3

2022/02/23

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hyotographics / Shutterstock.com

米国防総省は2日、緊張するウクライナ情勢への対応として、3000人規模の米軍を東ヨーロッパなどに派遣すると明らかにした。米本土からポーランドとドイツに2000人、ドイツ駐留米軍からルーマニアに1000人を、それぞれ派遣する。世界各地から発信されるニュースは、すぐにもロシア軍のウクライナ侵攻が始まりそうな雰囲気を伝えている。欧州の安全保障情勢に詳しいチェコ・カレル大学社会学部の細田尚志講師(安全保障学)によれば、情勢の緊迫は事実だが、欧州各国の様々な思惑が危機をより巨大な姿に増幅しているという。

細田氏によれば、欧州連合(EU)27カ国のウクライナ情勢への反応には、大きな温度差がある。ロシアに強い危機感を抱いているのが、バルト3国とポーランド、ブルガリア、ルーマニアだという。いずれも、ロシアが間近に迫る位置関係にある。これらの国々は、「ウクライナを救え」と訴えてはいるが、「自分たちの身も危ない」というのが本音だ。米国防総省は今回の米軍増派が、ルーマニア政府の強い要請を受けたものだと明らかにしている。ポーランドも常々、米軍が自国に常駐することを望んでいる。オバマ米政権が2009年9月、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を、ポーランドとルーマニアに設置する構想を発表、ルーマニアの施設は2016年から北大西洋条約機構(NATO)の指揮下で運用されているほか、ポーランドのものは、本年末に運用開始予定だ。

細田氏は「これらの国々は、ウクライナに武器を供与し、国際社会でウクライナを救えと訴えています。ウクライナのNATO加盟の道を閉ざすな、とも主張しています。でも、自分たちの軍をNATO加盟国ではないウクライナに派遣する考えや能力はありません。彼らの関心は、米軍の欧州防衛への関与をどれだけ確証できるかにかかっているのです」と語る。意地悪な見方をすれば、こうした国々は米軍のコミットを獲得するために、ウクライナ情勢を政治的に利用している側面がないとは言えないもかもしれない。

一方、ウクライナ情勢について「温度が低い国々」には、地理的に離れたスペイン、ポルトガル、イタリアなどが該当するという。2014年のクリミア併合後、ロシアとの経済関係を重視したイタリアはEUの対ロ制裁に反対した。今回、こうした国々は、NATOやEUが決めたウクライナ情勢を巡る方針に反対はしないが、自ら独自の政策や外交を発表する機会はほとんどないという。細田氏によれば、イタリアの主要企業25社のトップらが1月後半、ロシアのプーチン大統領との間で、経済協力拡大協議をオンライン形式で行い、ウクライナ情勢など、自国の安全保障とは関係ないという雰囲気が流れている。

こうしたなか、EUの主要メンバーであるドイツとフランスもやはり、ウクライナに直接軍事支援を行うことには慎重な姿勢を示している。ドイツは外交的による解決を訴え、旧東ドイツの野砲が他国経由でウクライナに流れることを拒んでいる。1月末には代わりに軍用ヘルメット5千個を提供すると発表し、ウクライナ側から失望の声が上がったほどだった。本年前半のEU議長国フランスも軍事的な圧力に訴えるよりも、外交交渉を重視し、ばらばらになりがちな欧州各国をまとめ上げつつ、能力と意志を持つ有志国が中心となって地政学的問題に取り組む欧州独自の戦略「戦略的コンパス」をつくることに腐心している。

温度差が激しい欧州各国のウクライナへの対応だが、潜在意識として、1938年のミュンヘン会談の再現を避けたい気持ちは共有しているという。ドイツのヒトラーが、チェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求。チェコスロバキアの意向そっちのけで、これ以上の緊張拡大を避けたい英仏などがドイツの要求を受け入れた会談のことだ。細田氏は「ウクライナのいないところで、ウクライナの運命を決めてはいけない、というのが欧州の共通認識だ」と語る。そこには、大国の都合で、自国の運命が左右される経験を重ねてきた欧州諸国の苦渋の歴史があるという。しかし、ウクライナについては、米ロの二国間で話が進み、欧州が蚊帳の外に置かれてしまうことも危惧される。だからこそ、NATOや欧州安全保障協力機構(OSCE)など様々なレベルでの協議が開催されているのだ。

そのチェコに住む細田氏だが、ウクライナから物理的距離のあるチェコの専門家たちは、軍事侵攻を懸念する指摘もある一方、「ウクライナ情勢は依然、差し迫った危機に直面していない」とも分析しているという。細田氏はこの分析について「米ロは今、お互いに力を見せつけ合っているが、ロシアは実際にはウクライナを取らないだろうという見方です。やるなら、2014年にクリミアを併合したように、国際社会の気付く前に、本格的な武力衝突に至らないように準備されたハイブリッド戦により静かに既成事実化するはずだろうという指摘もあります」と語る。

そのうえで、細田氏は今回のウクライナ危機は、日本にも一つの教訓を与えていると語る。「身近な脅威と言えるロシアに対する対応ですら、欧州は一枚岩になれません。ましてや、遠い中国に対し、欧州が結束して日本を助けに来てくれることは想像しにくいのが現状です。中国を牽制する国際環境を作るうえで、欧州各国は助けになるでしょうが、欧州有志国の関与を制度化する努力が必要となります。つまり、価値の共有に加えて、目標や手段の共有も必要になるでしょう。いずれにせよ、現状では、反中姿勢が増加していると言っても過度な期待は禁物だということです」

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